群像12月号笙野頼子「会いに行ってーー静流藤娘紀行」完結



11/7発売「群像」2019年12月号に笙野頼子さんの連作小説「会いに行ってーー静流藤娘紀行」第5回が掲載されています。
群像公式サイトのもくじ
ついに完結です。
私小説を徹底し新境地を開いた小説家・藤枝静男をテーマにした「論考とは違う、引用小説」第5回。
藤枝氏といえば、群像新人賞選考で笙野デビュー作「極楽」を激推した師匠的存在として(ファンに)お馴染みです。
第1回で師匠の人となりを語り、第2・3回で藤枝静男「志賀直哉・天皇・中野重治」、第4回で代表作『田紳有楽』から師匠の文学的自我を読み解きました。
最終回は、様々な作品から師匠の素顔に迫っていきます。
・第1回:群像5月号新連作「会いに行ってーー静流藤娘紀行」開始
・第2回:群像7月号笙野頼子「会いに行ってーー静流藤娘紀行」第2回掲載
・第3回:群像9月号笙野頼子「会いに行ってーー静流藤娘紀行」第3回掲載
・第4回:群像11月号笙野頼子「会いに行ってーー静流藤娘紀行」第4回掲載

最終回は10月12日の台風19号の実況で始まります。
Wikipedia 令和元年台風第19号
大型台風で家が揺れる中、師匠説を書き続けるという異常な状況。
今にも窓が吹き飛びそうで怖いんですけど〜!
そこで触れられるのは以下の小説群。
「龍の昇天と河童の墜落」
『空気頭』「イペリット眼」「犬の血」
「硝酸銀」『悲しいだけ』「一家団欒」「雛祭り」「庭の生きもの」
いわゆる「ありのままの自分」をかいた私小説です。と言っても聖人型の天才の師匠、それに収まらない。
 戦争の異常心理、一見明るいものが実はただの絶望であるような人間のあり方、軍隊にいなくても刷り込まれる暴力、そして戦争の中にもたまに平穏な日常があるからこそ、また、勝つ戦争もあるからこそ、人間は病んでいく。無論、最初のように明らかにこれは地獄という戦争もある。
師匠は国民が戦争に突っ込んでいった状況を、騙されるのとは別に、まず本人が望んで、というか異様な真理に乗せられ理性なく加担したのだと考えている。天皇についても、天皇を支持して、天王星と天皇をわける事ができなくなるのが、一般大衆の性だと理解している。
さらに、師匠が『空気頭』において人糞を摂取して不倫のセックスをする、もうひとりの自分を書こうとしたのも、ひとつはこの戦争に突っ込んでいくような人間の罪を自分だけが免れてはいけないと思ったからではないのか。とはいうものの、そんな時代全体の罪をひとりで背負う程の師匠の罪とは本当にどんな罪だろうか。いつだって彼は何かしら自分が悪いのだと云いたがっている。
随筆では優しく繊細なのに、小説では何かと作中の自分を暗く頑なに作り込む師匠。
そんな彼には「ありのまま」の私小説の自分より、「でたらめ」な私小説の方が自分らしく表現できたのではないか。
という感じで、斬新に作品を解釈していきます。
たった一度しか会っていないのに。それでも猫嫌いの師匠が私に猫達を実はくれたのだと最近ではしきりに思うのである。つまり何の利害もない弱いもののために、号泣することを彼は教えてくれたから
志賀直哉とセザンヌを愛する天才が、また新たな才能を(号泣して)守り伝えていく。
これこそが師匠の優しさを証明しているではないですか(泣。
きっと将来、笙野さんの師匠説を若き天才が書くのでしょう。

P263に師匠直筆葉書が引用されていますが、青木鐵夫さんのサイトに葉書の画像を公開して下さっています。
藤枝静男 年譜・著作年表 2019年
この新資料は青木さんが見つけて近代文学館に寄贈されたもの。ネットでもみれるとはありがたし。

全く余談なのですが、師匠はボールペン嫌いの万年筆派。だから笙野さんは筆ペンを使う。なんとそのような理由だったとは意外。
あと、笙野さんの家に無線wifiがないのも意外すぎる。誰か設置して差し上げて。二階で寝ながらタブレットでネットできるようにしてあげて!
(それと私は、師匠と夫人が無神論という点が何か…。前衛芸術を理解し愛せるような繊細で想像力を持つ人たちが神を捨てるというのは、それ自体が戦争の傷跡ではないのかと思ってしまうのですよね。余計なお世話ですが。)

馬場秀和さんがさっそく感想をアップしています。
『会いに行って――静流藤娘紀行(第五回:最終回)』(笙野頼子)(『群像』2019年12月号掲載)

東條慎生さんの感想ツイートも。

丸黄うりほさんの感想。文学の父、いいですね。

hasegawa noboruさんの感想
読書メーター hasegawa noboru さんの感想
「師匠の『志賀直哉・天皇・中野重治』や『田神有楽』等主要作品を取り挙げながら微に入り細を穿って師匠像に迫った、笙野の愛情溢れる論考、私小説。」
まさにミクロとマクロ両面から語られていると思います。

最後に参考資料が挙げられていたのでメモ。
【主要参考資料】
「田紳有楽」藤枝静男(「群像」1974年1月号 7月号 1975年4月号 1976年2月号)
「冬の王の歴史」勝又浩(群像1982年4月号)
『志賀直哉・天皇・中野重治』藤枝静男(講談社文芸文庫)
『五勺の酒・萩のもんかきや』中野重治(講談社文芸文庫)
『暗夜行路』志賀直哉(新潮文庫)
『藤枝静男著作集 全六巻』(講談社)
『裾野の「虹」が結んだ交誼ー曽宮一念、藤枝静男宛書簡』増渕邦夫編、和久田雅之監修(羽衣出版)
『作家の姿勢ーー藤枝静男対談集』(作品社)
『藤枝静男論ーータンタルスの小説』宮内淳子(エディトリアルデザイン研究所)
『中野重治全集 第19巻』(筑摩書房)
『藤枝静男と私』小川国夫(小沢書店)

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