笙野頼子『ウラミズモ奴隷選挙』10/25発売&感想リンク

笙野頼子さんから新刊『ウラミズモ奴隷選挙』をご恵贈賜りました。ありがとうございます!
装幀はもちろん、ミルキィ・イソベ+安倍晴美(スチュディオ・パラボリカ)ですよ!

ウラミズモの白梅学園にちなみ?白梅と真昼の月をモチーフにした、明るくも怖ろしさを併せ持つデザインでクール。

折返しには主な登場人物が紹介されているので、途中で誰か分からなくなっても安心です。
電子書籍版も12/7より各社で配信されています。

記事index

本書は「文藝」2018年秋号に掲載された、TPP警告長編「ウラミズモ奴隷選挙」を収録。
「だいにっほん」三部作のスピンオフ『ひょうすべの国』の続編。
2016年にTPP批准され、水道法改悪、種子法廃止、働き方改革は悪法化し、人口の75%が奴隷の「にっほん」。
女人国「ウラミズモ」は、選挙で「民主的に」国家戦略特区を占拠していた。
ウラミズモ領土となったS倉では、エリート白梅高校ではオストラの最終決定が行われようとしていた。
「にっほん」凶悪犯罪者を管理する男性保護牧場の実質的ボスであり移民である市川房代、彼女を尋ねる一千年以上生きる姫神、生え抜きエリート高校生・猫沼きぬと又尾銀鈴の語りやメールが交錯し、一見平和なウラミズモ社会とTPP地獄の「にっほん」が描かれていきます。

植民人喰い条約 ひょうすべの国』の続編ではありますが、知らなくてもわかるよう前書きで解説されています。
公式サイトの内容紹介or帯文を読めば、過去作忘れちゃった人もバッチリ内容についていけますよー。

収録内容

前書き「初読み?大丈夫、ようこそウラミズモへ」11p
「ウラミズモ奴隷選挙」(「文藝」2018年秋号)
「後書き 離脱への道」5p
「次回予告ーー作者、欲望のままに」7p
資料
Web河出[書き下ろし短篇小説]ウラミズモ、今ここに
笙野頼子資料室「近況ご報告その他」
・参議院議員・野村哲郎、河野太郎へのメール
・文藝家協会評議会への手紙

前書きでは、注意点がひとつ。
まず、このTPPというものを単独のひとつだけの恐怖とは取らないでお読みください。いわゆるメガ自由貿易全体の問題として捉えてください。このTPPには沢山の仲間があり、その名をRCEPと行ったり日米FTAと言ったり、日欧EPAと言ったりTiSAと言ったりします。この全部がほぼ、結果的には同じ、メガ自由貿易の災難なのだと、思ってください。例えばもし私がTPP怖いと言っていたら、ここに書いた他の変な横文字、全部怖いものであることをどうか理解してください。
なるほど。日欧EPAも怖いのかー。
次回予告では、ついに「にっほん」の東京がウラミズモに占領されてしまいます。それって「にっほん」滅亡してません?もう面白すぎるわ。

感想リンク

馬場秀和ブログで感想がアップされています。
『ウラミズモ奴隷選挙』(笙野頼子):馬場秀和ブログ
時系列をまとめた年表も作られてます。これは便利。

笙野頼子「ウラミズモ奴隷選挙」 : phantasmagoria
うさぎさんの感想です。
作者は本作を「ぶっとんだディストピア」と呼んでいるが、女性たちをことごとく搾取し、あらゆる「男性の権利」と、彼らにとって都合の良い「女性の権利」のみを声高にかつ執拗に主張するにっほんの男性たちの姿は、そのまま現実の日本の男性たちのやり口とまったく同じで、実に暗澹たる気持ちにさせられる。加えて、奴隷根性が染みついた民族性という点についても。
大事なことをあえて見えないように操作することで、国民たちはそれを知ることなく生きているのだということが浮き彫りにされたような気がする。TPPについての詳細は調べればわかるのかもしれないが、マスコミはそれを報道しようとしない。だから知らないひとは知らないのだ――私も含めて。そのことを突き付けられて慄然とさせられた。
報道されていないと、日常の些事に気を取られ、知らずにすませてしまうのですよね。怖いです。
ウラミズモの問題点も指摘。

笙野頼子 ウラミズモ奴隷選挙 - Close To The Wall
東條慎生さんの感想です。
いまこの作品あるいは笙野頼子に興味が向いたならばまずまっさきにこれを読むのがいいだろう。

なぜかといえば、今現在日本で進行しつつあるさまざまな政治的社会的事象を観察し取り入れた描写の数々には現実のカリカチュアライズのはずがむしろまったき現実そのものとしか思えず、また書いた時点よりも未来を先取りするかのような描写はその観察の正しさを証し、いったいどちらが虚構なのか、という読むことそのものが生々しい今現在のおぞましさを味わうことになるような体験はたぶん今にしかないからだ。
確かに。今進行している事象を批判した作品なので、今読んで体験して欲しいですね。
消費を上向かせたいのか消費を抑制したいのかわからない、少子化をなんとかしたいのか女性に出産をさせたくないのかわからない、そういう政策や現実を見るにつけ、作中の支離滅裂な自滅的社会とはまさにこの現実の日本そのものだ。
そして、性愛のない国ウラミズモを紹介しています。
双尾銀鈴の卒業文集「僕と未来の暴力、純粋暴力について」では、
ここには女を排除しようとする選挙に対し、純粋暴力としての処刑を対置しながら、構造を露呈させ、以て暴力を批判しようとする試みがあるようにも思う。
ひょっとしたら奴隷選挙とオストラ(死刑選挙?)は、法治国家の強制力、第四の暴力を提示している気がします。

書評リンク

赤旗2018年11月25日(日)日曜版文化面に木村紅美の書評が掲載されました。
ブログ記事:赤旗11/25『ウラミズモ奴隷選挙』書評木村紅美さん

日経新聞11月29日夕刊 利きが選ぶ3選に『ウラミズモ奴隷選挙』。評者は小谷真理。
ブログ記事:赤旗日曜版12/2号笙野頼子インタビュー、日経11/19夕刊「ウラミズモ奴隷選挙」書評

北海道新聞12月2日(日)に八木寧子の書評が掲載されました。
「女尊国」通し日本に警鐘<書評>ウラミズモ奴隷選挙:北海道新聞

東京新聞・中日新聞12月2日(日)読書欄「藤沢周さんの3冊の本棚」に『ウラミズモ奴隷選挙』が紹介されました。
中日新聞12/2「藤沢周さんの3冊の本棚」に『ウラミズモ奴隷選挙』
東京新聞ほっとWebHOME 3冊の本棚

赤旗日曜版12/2号笙野頼子インタビュー、日経11/19夕刊「ウラミズモ奴隷選挙」書評

「文藝」2018年冬季号 文芸季評山本貴光「文態百版」2018年6月〜2018年8月|Web河出
同じ「文藝」に掲載された笙野頼子「ウラミズモ奴隷選挙」では、二一世紀初頭に「にっほん」(二〇一六年にTPPが批准されたパラレルワールド)から独立した「女人国」のウラミズモを、神が眺め歩きながらその様子を伝える。これもいうなれば一種の政治シミュレーション小説である。例えばウラミズモの展示館では「痴漢」が生体展示されており、「にっほん」(ならびに日本)でなら何食わぬ顔をしている彼らが、いかにおかしなものであるかを徹底的に異化してみせる。作家は男性の身勝手による女性差別を批判しつつ、かえす刀で「イカフェミ」をも斬っている。

本作の背景には、相変わらず男尊女卑がまかり通る日本の惨状があるのは指摘するまでもないだろう。東京医科大学の入試で、女性受験者の点数を下方に変更していた事件は記憶に新しい。世界経済フォーラムが発表する「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)」において、日本は下から数えたほうが早いだけでなく、この三年順位が下がり続けている。また、身近なところでは、例えば女性専用車両についてTwitterで日本語による投稿を検索してみれば、そこかしこで少なからぬ女性蔑視の言葉が目に入る現状がある。ここで「それを言うなら男性蔑視の言葉もある」と言いたくなるとしたら、そんなあなたにこそこの小説を読んで欲しい。まずもって必要なことは、理不尽な立場に置かれた人や被害に遭っている人の救済と加害者の責任を明確にすることである。「ウラミズモ奴隷選挙」が小説のうえで行っているのはこれである。

赤旗2018年12月12日(水)回顧2018 文学「文学差別問多様性目指す」(平川由美)で『ウラミズモ奴隷選挙』が紹介されました。
大胆なフィクションを通して「国を売るな、国益渡すな、民よ死ぬな、奴隷になるな」とTPP反対の烽火を上げる笙野頼子『ウラミズモ奴隷選挙』は、作品で警告した通りの事態が実際に起こるという現状分析の鋭さとともに、あきらめずに抵抗し続けることを鼓舞してやまない予言の書です。

二人が選ぶ今年の10冊に安藤礼二さんが『ウラミズモ奴隷選挙』を挙げています。
東京新聞12/19:文芸この1年 佐々木敦×安藤礼二 対談(上)
東京新聞12/20:文芸この1年 佐々木敦×安藤礼二 対談(下)

週刊エコノミスト Onlineの読書日記に『ウラミズモ奴隷選挙』が取り上げられました。
ブレイディみかこの読書日記 現代社会を笑い撃つユーモアと孤高の知性 2019年1月11日付。

琉球新報2019年1月20日(日)読書欄12面に内藤千珠子評『ウラミズモ奴隷選挙』「仮想社会で描く女性暴力拒否」が掲載されました。
ブログ記事:琉球新報1/20内藤千珠子『ウラミズモ奴隷選挙』書評

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