琉球新報1/20内藤千珠子『ウラミズモ奴隷選挙』書評
琉球新報2019年1月20日(日)読書欄12面に内藤千珠子さんの『ウラミズモ奴隷選挙』(笙野頼子)評「仮想社会で描く女性暴力拒否」が掲載されています。
疾走する想像力によって書き上げられた力作である。世界の悪意と闘うために、笙野頼子が設定したのは、仮想世界「にっほん」は、2016年にTPP(環太平洋連帯協定)が批准されてできた架空の近未来世界である。「メガ自由貿易」を従順に受け入れ、奴隷状態となったにっほんの没落ぶりは激しい。人々は自らを奴隷化し、暴力は弱い側に向かう。そこでは女性への虐待が横行している。古代石の女神・姫宮にスポットを当て、小説の全体をわかりやすく解説されています。古代神の視点によって歴史のスパンで「世界全体の不幸」と捉えられる形になっているのではと思います。
あまりの過酷さに、女性たちは立ち上がり、にっほんの内部で女人国「ウラミズモ」が独立した。そして現在、「国家戦略特区」となった地方自治体は、選挙によって「にっほん」か「ウラミズモ」か、帰属を選ぶことができる。
「女尊」の国ウラミズモも、理想的国家とは言い難いが、選挙の結果、ウラミズモの領土は次第に広がっていく。
「S倉区」に古代から祭られてきた石の女神「姫宮」が語り始める。夫の陽石神は暴力的な男たちに嫌気がさし、姿を消してしまった。姫宮は夫からの贈り物を探すため、人間の「おばあさま」に化けて現れたのだった。ウラミズモで生きる女性たちの生に呼応しながら、姫宮は歴史と現在を知り、女性への暴力に憤る。
描かれた女性たちの痛みはさまつな「女の問題」にみえるかもしれない。だが、それは「女の問題」にみえることで不可視にされる、世界全体の不幸にほかならない。なぜなら「性暴力、差別暴力、経済暴力は三位一体」で、「最終的には経済暴力になって世界を覆う」からである。事実、私たちは、性別を問わず、すべての身体が資源とみなされる現実を生き始めているのではないか。
この仮想世界の中で、奴隷化された人々は選挙にいってウラミズモを選ぶ。姫宮は苦労して移動しながら、新しい世界の人々に出会い、別の姿と化した夫をみつける。想像力を全開にすれば、小説の言葉の中で、生き抜くための指針にめぐりあえるはずだ。