東京新聞12/19二人が選ぶ今年の10冊に

東京新聞12月19日夕刊「文芸この1年 対談」の二人が選ぶ今年の10冊に安藤礼二さんが『ウラミズモ奴隷選挙』を挙げています。
東京新聞:文芸この1年 佐々木敦さん×安藤礼二さん 対談(上)
東京新聞:文芸この1年 佐々木敦さん×安藤礼二さん 対談(下)
佐々木 第百五十九回芥川賞の候補作「美しい顔」の問題にも触れたい。東日本大震災で家族を失った少女を主人公にした小説で、ノンフィクション作品との類似表現が問題になりました。デビュー作だった北条裕子に脇が甘いところがあったのは事実。この作家は二作目が書けるかどうかが勝負でしょう。

安藤 震災を題材にしたのが全ての原因だと思います。歴史を描くか、フィクションを描くか、位置取りが明確でなかった。震災は非常に強いリアルなので、題材にするにはたいへんな覚悟が必要。

佐々木 確かに、本人も被災地に行かずに書いたと公言していて、盗作疑惑がなくても批判される可能性はありました。ただ、それでも擁護したいと僕が思うのは、あれが新人の第一作だったからです。推測するに、彼女はテレビ報道で震災ポルノ的なものを見て、心の底からムカついたんだと思う。だから主人公の少女はやっぱり作者自身なんです。その個としての切実さは認めたい。

安藤 でも、震災を文学に利用しては駄目ですよ。確かに、文学作品は究極の反社会性を持たざるを得ないところがある。笙野頼子の『ウラミズモ奴隷選挙』には、男性の痴漢する自由が、『新潮45』問題の起きる前にパロディー的に嘲笑されています。ただ、彼女は自分が言葉の暴力を行使しているということに自覚的。作家は言葉の暴力にあらがうと同時に、その主体であることを踏まえ、それに伴う責任を引き受けなければいけない。

佐々木 そうしないと批判する側が批判される側になってしまう。文学がいや応なしに、かつてとは違う形で社会性を獲得した年とも言えます。

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