毎日新聞7/29文芸時評に『会いに行って』

毎日新聞2020年7月29日(水) 夕刊の文芸時評7月 田中和生「遠藤周作の未発表小説 新たな読みを喚起」で笙野頼子『会いに行って 静流藤娘紀行』が紹介されています。
文芸時評:7月 遠藤周作の未発表小説 新たな読みを喚起=田中和生 - 毎日新聞
 新たな読みを喚起するという意味では、笙野頼子が藤枝静男について語った『会いに行って 静流藤娘紀行』(講談社) も、注目に値する。八一年に群像新人賞を受けてデビューした笙野は、選考委員だった藤枝静男に見出されたと言っていいが、それ以来私淑することになった作家の姿と文学を縦横に論じている。志賀直哉に師事し高井孝作の影響を受けた藤技は特殊な私小説作家と目されるが、笙野はその代表作である『田神有楽(七六年)』に真の「私小説」を見出している。
 作中で藤枝を「師匠」と呼ぶ作者自身を思わせる語り手は、この作品が私的な経験や個人的に得た資料を駆使して「師匠」について書く、私小説ならぬ「師匠説」だと宣言する。そして藤枝が九三年に亡くなるまでの姿や、その前後で変わらずに影響を受けてきた作品の凄みを、作者自身の記憶と近況も交えながら語る。中盤の天皇制をめぐる議論も興味深いが、 荒唐無稽でSFのような『田紳有楽』の世界が実は「私」の真実しか書かれていない「私小説」だと示していく手際が鮮やか。志賀直哉、藤枝静男、小川国夫、笙野頼子とつづく、文学史的な系譜が見え、そこでの藤枝の重要さが浮き彫りになる、作家が一度しか書けない決定的な「師匠=私小」説だ。
内容もコンパクトにまとめ、藤枝静男を知らない人にもわかりやすく解説していて良いですね。

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