『思想としての〈新型コロナウイルス禍〉』5/23発売


河出書房新社から5月23日発売された『思想としての〈新型コロナウイルス禍〉』に、笙野頼子さんの短編小説が収録されています。
思想としての〈新型コロナウイルス禍〉河出書房新社編集部|河出書房新社
「コロナウイルスは人類を未曽有の危機へおいやろうとしている。感染症と文明、人間と病気などをめぐって、この危機がなげかける問いに思想家、専門家たちが向きあう」著者18名によるアンソロジーです。もくじは以下。
大澤真幸・論考「不可能なことだけが危機をこえる 連帯・人新世・倫理・神的暴力」
仲野徹・インタビュー「オオカミが来た! 正しく怖がることはできるのか」
長沼毅・論考「コロナウイルスで変わる世界」
宮沢孝幸・論考「新型コロナウイルスは社会構造の進化をもたらすのか」
椹木野衣・インタビュー「「ポスト・パンデミックの人類史的転換」
与那覇潤・論考「歴史が切れた後に 感染爆発するニヒリズム」
笙野頼子「台所な脳で? Died Corona No Day」
酒井隆史・論考「パンデミック、 あるいは〈資本〉 とその宿主 」
小川さやか・論考「資本主義経済のなかに迂回路をひらく タンザニアの人々の危機への対処から」
木澤佐登志・論考「統治・功利・AI アフターコロナにおけるポストヒューマニティ」
樋口恭介・論考「Enduring Life(inn the time of Corona)」
綿野恵太 ・論考「「ウンコ味のカレーか、カレー味のウンコか」?という究極の選択には「カレー味のカレー」を求めるべきである。」
工藤丈輝・エッセイ「流感・舞踏」
小泉義之 ・論考「自然状態の純粋暴力における法と正義」
江川隆男・論考「自由意志なき 〈自由への道〉行動変容から欲望変質へ」
石川義正・論考「人間に固有の原理としての愚劣」
堀千晶・論考「感染症と階級意識」
白石嘉治×栗原康・対話「カタストロフを思考せよ」
浪速大学医学部病理学教授の仲野徹さん、京大ウイルス再生医科学研究所の宮沢孝幸さんも参加されておられる。デザインは中島浩さん。

笙野頼子さんの新作小説「台所な脳で? Died Corona No Day」は12ページ。
私の夢に現れた中野重治に21世紀を説明する形で、COVID-19パンデミックという災厄を千載一遇のチャンスと利益誘導するばかりの新自由主義な日本政府の対応を批判していきます。それらを容認する無責任言説にも中野重治風の「刺激的挑撥的な言い廻わし(by藤枝静男)」で一刀両断。
難病患者でもあり戸主でもある私の台所という生活基盤から、TPPや種苗法の問題点もガンガン解説。
情報量が多く高濃度なテキストに、まるで中野重治が習合したかのごとく煽動的なワードが展開。威力三倍増しになっとります。
脳への刺激が強すぎて、読むだけで鼻血がでそう。
SNSで「#さよなら安倍政権」を投稿する人にぜひお勧めしたい短編小説となっています。
この彼らにとって、新種の疫病は民主主義国家においてはまさに未曾有の事態である。つまりわが政府は国民を減らすための「千載一遇のチャンス」って捉えているわけだ。ちなみにこの「千載一遇のチャンス」ってフレーズは君が亡くなる数年前のあの石油ショックの時、さる大会社の印刷物に書いてあった言葉だそうで、さらにその二十年後の阪神大震災の時も、これはお役人が出した本に使ってあったわけで(地震は住宅区画整理のための千載一遇ってのを、私は覚えている、大昔新聞の読書委員をした時検討していたものだ)。p90
ありました。関西のテレビで「住宅区画整理のための千載一遇」叩いていたのを覚えています。
そして4月の自民党幹部による「もたない会社はつぶすから」発言を思い出しました。
自民党幹部「もたない会社つぶす」発言 日本は会社がつぶれると人が死ぬ可能性が高い国(藤田孝典)  Yahoo!ニュース
これでは政府は見殺しにきてると思わざるえなくなります。
コロナ対策第二次補正予算より、検察庁改正法案、スーパーシティ法案、種苗法改正法案、国民投票法など不要不急の物を優先して審議しているのですから。 薄すぎる布マスクに90億円〜900億円、持続型給付金は電通中抜き。給付金のオンライン申請は書類郵送より手間がかかる仕様。その不具合をネタにマイナンバーと口座を紐付けしようとする。もう市民の命より別のもの優先してるの見え見えなのですが。

なぜ中野重治が夢に出てくるかと言うと、ちょうど藤枝静男をテーマにした新刊『会いに行ってーー静流藤娘紀行』の校閲中に書かれた小説だからですね。
そちらでは藤枝静男『志賀直哉・天皇・中野重治』を分析するから、中野重治の全集も参照されてる。
だから中野重治の語り(煽り?)が写ってもおかしくない(だって金毘羅なんだもん、多分)。
ワープロ中や猫といるのでない限りは大体ここにいます。ここは台所、別に女性だから台所にいるわけではない。つまり私は、戸主なんです 。戸主として自分の食べたいものを作っているだけだ。自炊で資本主義にちょっとだけ勝ちたい。食を支配している気分になりたいんだ。ところがここは火も水も黴もバイ菌も存在する場所。フォイエルバッハは言った、台所で泣くものだけが真実を知ると。そしてまたここは華厳の場所でもある。甘さにも辛さにも原因があり、因果の連帯こそが表面的な現象の本質を見抜いてかつ、それを教える場所。腐ったもの、遺伝子組み換え、隠れモンサント、見抜こうと思ったら見てくれだけではダメ、経過、実態、そして自分のカンも、……台所そこは? うまくやれば、みぞうゆうを三枚に下ろしてみじん切りにできる場所。これ能天気すぎますかね? まあ、台所脳ですな。
 そう、台所な脳なんです 。台所な脳でないとだめだめです。たかが未曾有ごときで無力になったら千載一遇のカモにされるから、でんでん。p94
放射脳より台所脳。休業要請補償の給付金もアベノマスクすら届かない。ぼんやりしてたら鴨鍋にされて食べられるだけですから。
特にCOVID-19で自粛生活を余儀なくされて、家でパンやケーキを作った人多かったはず(小麦粉とドライイーストいまだに品切れな位だし…)。台所脳になれる人沢山いるのではないでしょうか。

阪神大震災でもそうだけど、こう言う時Essential Worker以外は必要かと叩かれやすい。特に芸術とか文学は。
それで一体何が無効なんですか? だって無効になる程大層な事を文学でしているつもりは「ない」んですよ。ただ、コロナが収束した後も、自分が生きられるようにしておかなければならない。生きられるようにすることが文学なだけだ。それまで自由貿易を食い止めて戦争も止めて、何よりも自分が存在するための免疫を守るんだ。そして未来は今まで払った私の国民年金(少額)をきちんと貰い、公営水道の水で洗った国産の蓮根や巨峰を安心して食べ、テレビで令和妖怪の連続逮捕を見たいんだ。p96
みたい!法を犯す者は逮捕される法治国家だと証明してほしい。
10年前には当たり前だった生活を望むだけで切実な願望になってしまうなんて、おかしい。
さて、それで?グローバルは博愛か? とんでもない! 国をなくすという人々はけして国家とともに権力を無くしてくれるわけではない。だってクリステヴァが言っている権力は飛び移る。国家が無くなったらどこに行くか、自動運動する世界企業の金庫に飛び移るだけだ。そして国境を越えるというのは本来は思想の言葉なのに、今の権力は放射能で国境を超え、搾取と収奪で「世界をひとつ」にするだけ。それで「平等」にみんなを餓死させるだけ。新世紀とは? 世界企業に捕獲された民主主義の時代。まき散らし、まき散らし、世界を全網羅する死神の世紀。p96
COVID-19が数ヶ月で世界中に蔓延したのは、明らかにグローバル企業によるグローバル経済の影響ですよね。でもこれからはイギリスのジョンソン首相のように、新自由主義から社会の連帯に舵を切っていく。そう言う流れになるのではないでしょうか。日本以外は。
なお、その後はメインで種苗法というのを「改正」するはず。まあカギカッコ取れば改悪だよ。前二つはすぐわかるがこの種苗法は要説明。つまり工夫して取った種という資本を禁じられて、よそから買わされる。農民の工夫が自主性、尊厳までも年貢にされるのだ。
 農家であれ個人の庭先であれ、自分の家に巻いた植物の種をとって、また来年実らせようとすると、これが罪になる。一千万円以下懲役十年以下(無論さぞいい口変えて何の間の言うだろうが最後には絶対にやってのけるだろう)。
 コロナ影響下で輸入の食料も不足になる可能性があるとテレビで行っていながら、その口で農業を売ってしまうんだよ。病床を減らすと決めたそのメンツでねえ。p98
今国会は見送られるようですが、次はどうなるかわかりません。
コロナの影響で小麦粉の輸出制限がありました。食料は確保しておかないと次の流行に対応できないのに。
毎度毎度同じ構造の危機言説がやってくる。すべてあやかしだ。切断されているから怖く大きく見える。p100
冷静に考えればその通りです。でも薬も治療法もわからない感染症を前にすると、生活を確保するだけで1日が終わる。そこを妖は利用してくるのだから卑怯極まりない。

早くも東條慎生さんの感想ツイートでてますよ。
馬場秀和さんのブログにもアップされました。
 ネオリベ、TPP、劣化評論、文学叩き。見殺しというよりいそいそと殺しにかかる権力妖怪でんでんにみぞうゆう、弱いものを生贄にすることで助かろうとする穢れ「信仰」の呪術男。コロナ禍であらわになったこの国の本質の見抜きを12ページでまとめた、今の笙野文学総集編。
なるほど、さすがの読みです。この記事に内容やあらすじが全部まとまってます。素晴らしい。

でもこのテキストが中野重治の芸風の影響だとわかる人、群像読者かファンだけかもと思っていたら。 怒りと捉えるのは読み違い易いルートなんだよね。やはりハードル高かったかな。

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