赤旗4/29(月)に多和田葉子&笙野頼子対談記事

しんぶん赤旗2019年4月29日(月)1面と5面に対談シリーズ「さあ、文学で戦争を止めよう」が掲載。
第3弾は、多和田葉子さん!5面ぜんぶ対談\(^^)/
第1弾 2018/08/17 木村紅美さん
第2弾 2019/01/07 島本理生さん
第3弾 2019/04/29 多和田葉子さん
笙野頼子さんの対談シリーズは、季節ごとに発表される感じになってきました。

全米図書館賞を受賞した多和田葉子『献灯使』の紹介から始まり、多和田さんの、丁寧な生活にこだわる日本がなぜ原発を容認するのかという疑問から、原発の話に。
笙野 メルケル首相は保守党で、もとは原発推進派。でも止めるとなったら止める!
一方、自己の責任国なのに日本は再稼働を求めて嘘を重ねています。

多和田 メルケルは物理学者です。ドイツの物理学は人間の実生活に根差しているのではないかと思います。日本では自然科学は生活から切り離されていて、セシウムとかプルトニウムとか言っても、味も匂いもしないし、考えなければ無いものとして忘れることができてしまうんでしょう。

笙野 自然科学という以前に、黙殺と同調圧力の社会なので。そもそも日本は原発が止まっても電力がまかなえた。電力が足りなくなると脅して、民を搾り取り、危険にさらし、弱者から収奪することしか考えていなかった。ドイツでは企業が献金や広告料によって政府やマスコミに影響を与えることはないんですか?

多和田 メルケルが反原発を言い出した時は国民の圧倒的な支持を得たので、企業の後押しなど必要なかったと言われています。ドイツの企業も将来性のない分野にしがみつくような愚かなことはしません。例えばシーメンスは政府が脱原発を決定してすぐ、原発部門をフランスの企業に売って、再生エネルギー分野の開発に切り替えました。ただ隣の国に原発があることは大きな問題です。

笙野 アメリカのGEも原発事業から撤退しました。多くの国民が反対してるのに、日本がずるずると原発にしがみついてるのは、狭いお仲間の短期的な利権のためだけですかね。

多和田 原発事故によって、もともと日本が抱えてきた問題が明るみに出たと思うんです。国の経済さえ発展すればそのために病気になる人が出ても仕方がないと思わされていたり、一応民主主義があるのにみんなの意見が政治に全く反映されない感触があったり、自分の意見をはっきり言えない雰囲気が強くなってきたり。見えないことを見えるように書く小説にこそできることがあるのではないかと思います。

TPPと入管法 搾取される人々

笙野 日本は昨年末にTPPがとうとう発効して、経済主権を喪失し世界企業の奴隷農場になりかねない。これから農業も漁業も医療も食の安全もめちゃくちゃにされて、国民はミイラになっても搾り取られます。難病を抱える私など真っ先につぶれます。この危機をマスコミは報道しない。でも私は小説で告発します。個人の事情の小さいことからずっと書いていけば、むしろ大きいコードにつながりますとも。上の方で不正をしている誰かが見えるようになるまで、一人の人間が逆らってゆくということなんです。個人にとって今一番切実な問題、自分の足元をひたすら掘る。それが私の文学だと思っています。

多和田 笙野さんは、ならされた土の上で私小説を書くのではなくて、それを破る挑戦を続けている。普通、小説には出てこない単語、例えばTPPをスパッと書く。ジャーナリズムも学問も誰も言えなくなっていることを表現する場としての小説を何十年も作ってこられたと思います。
「ならされた土の上で私小説を書くのではなく」って、名言ですね。まさにその通り。
そして『地球にちりばめられて』の日本が消滅して海外に取り残された主人公の話から、外国人受け入れの改定入管法の話に発展。
多和田 私が日本で問題だと思うのは、外国人労働者以前に、ブラック企業に食い物にされている日本人がたくさんいる現状です。

笙野 今の規制緩和と非正規労働の中では分断されていて怒りにくいんですね。テレビも権力者に同化して出世するドラマばかり、大新聞の論調も実は公平ではなく、権力者を除いたみんなで貧乏になろうと言っているだけ。昨日も性暴力に反対する女性のためのデモがあったけど、ろくに報道しない。

職場の構造変え 異文化共生社会

多和田 だから日本の職場の構造から変えなきゃ行けないと思うんですよ。まず日本人が、これはひどい!と上司に文句を言う、自主規制して黙っておくのはやめる、違う意見が出た時に否定したり排除したりするのではなくて、その人の意見をちゃんと聞く。そのことが、違う文化の人たちも生きやすい社会に繋がると思います。

笙野 多和田さんは、いろんな国民のアイデンティティーをさまざまな仕掛けを使って、揺らしながら書き出して、物事をむき出しにして、人間にとって本当に大事なものを求めていこうとしていますね。
ベテラン小説家が互いをリスペクトしながら社会問題と智見を語り合う、素晴らしい対談。多和田葉子ファンは必読ですよ。
次回は夏でしょうか。誰がゲストに呼ばれるのか、楽しみですね!

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