島尾敏雄『死の棘』

死の棘 (新潮文庫)

今月の文芸誌、笙野頼子情報はないみたい。がっかり。
新潮7月号は島尾敏雄の日記が掲載してるらしい。
先月「死の棘」を読んだばかり、ちょっと気になる。

「死の棘」は主人公トシオとミホの夫婦生活十年目の破綻、そして再生するまでを描く小説らしい。
まったく家庭をかえりみなかったトシオが、ミホの発病をきっかけに
夫として父として家族として、新しい世界を構築していくストーリーは見事。
現実の出来事を描きながら夫婦の家庭の精神世界を文章化している。
親密な人間がお互いの感情が影響しあって行動となる、
そういう精神的関係がリアルに小説になっていてすごい。

よむのは二度目。一度目は高校のときによんだ。
トシオの優柔不断ぶりと「こんな優柔不断のオトコはいやや」といった同級生のことを鮮明に覚えている。

今回はミホの気持ちがよくわかる。
浮気していたトシオの日記をみて、信頼を失う気持ちも、
家事をしているときに怒りにとらわれて夫を責める気持ちも、
「愛しあいたいだけなのに」と夜中にひとりごちる気持ちもわかる。
ミホの悲しみに胸が痛む。
1977年の作品なのにミホは今の女性となにも変わらない。違うのは十年我慢したところか。
赤ん坊が泣き出したら露骨に不機嫌な顔をするような、
家事育児一切やらず仕事と称して外泊しまくりの夫によく十年も我慢するよな。
そらノイローゼになるって。ならないわけがない。
と思ったら17年我慢している人がいるしー。
人を許せない悩み - 不妊・妊娠・出産・育児-女性の為の健康生活ガイド『ジネコ』
今もかわらない問題なのかも。

ミホのよき妻でありたい・トシオと愛しあいたい気持ち、それを裏切る発作的怒り。
トシオのよき夫でありたい気持ちとそれを裏切る感情。
理性と感情、抑圧と暴力、高ぶりと静けさの両極にゆれる精神に休まるときはない。
穏やかな時間さえ発作をおそれてくつろげない。
まるで戦時中のようではないですか。

トシオがミホを支配した10年、発作で逆転してミホがトシオを支配する。
でもミホは愛を求める。
ドメスティックバイオレンスな支配関係から、あらたに愛し合う平和な関係をすこしづつ築いていく。
そういう小説だったんだと今ならわかる。



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