川上亜紀『チャイナ・カシミア』に笙野頼子解説「知らなかった」

七月堂より刊行された川上亜紀作品集『チャイナ・カシミア』に笙野頼子さんの解説「知らなかった」が収録されています。
七月堂さんから通販できますよ。
Amazonは本のページができたばかりですが、通販 hontoオンライン書店e-honで予約できます。

馬場秀和ブログでは、『チャイナ・カシミア』(川上亜紀)
『モーアシビ 別冊 川上亜紀さん追悼特別編集』(白鳥信也:編集)ともに紹介されています。
東條慎生さんの感想も。川上亜紀『チャイナ・カシミア』 - Close To The Wall

収録作品

「チャイナカシミア」早稲田文学2004年3月号
「北ホテル」モーアシビ16-18号2009年
「靴下網師とメリヤスの旅」モーアシビ32号2016年
「灰色猫のよけいなお喋り 2017年夏」モーアシビ34号2018年
解説:笙野頼子「知らなかった」

「チャイナカシミア」は、カシミア混のセーターをきていた私や父がいつしか山羊に変身、周りから家畜として扱われてしまう展開に。
怖いのが家畜の生活と人間の生活にあまり差がない感じがするところですね。そして可愛い灰色猫。

「北ホテル」、北海道の小樽運河に一人旅する友子がダッフルコートの私と習合する話。
旅先ホテルの部屋に入る時にチラつくゴースト、ってその不安なんかリアル。そういうのありますよね。あれ何なんでしょう。

「靴下網師とメリヤスの旅」、駅近パン屋のイートインコーナーで編み物していると隣の白髪女性と仲良くなり、女性の靴下を編んであげる事になる。
パン買うついでにイートインでコーヒーとか、見知らぬ客と会話とか、ミステリ好きで近所の小さな図書館では物足りず大型図書館行くとか、でこぼこのマフラーしか編めないとか、本好きあるあるの連続で面白い。ラストの完成した靴下を渡した後の展開も爽やか。
語られない大ゲンカ事件という演出も推理小説のお約束で良いですね。

「灰色猫のよけいなお喋り 2017年夏」は、川上亜紀さんの飼い猫チビさんの楽しいお喋り。貰われてきた経緯や飼い主家族との生活を語ります。
ツイッターで時々登場してたお喋りが短編に。
ロシアンブルーのチビさんは、肝臓の数値高めなのに療養食カリカリも薬も食べない、その上ささみ大好きな偏食系。そのワガママな難易度高い猫が16年も長生きしたなんて凄い。大事にされてた証拠ですね。

解説:笙野頼子「知らなかった」

川上さんとの交流の話を交えながら、収録作と『グリーン・カルテ』の解説などを語られています。
その才能を「ここに点在するのは、生きた天然の静謐な笑いツボ。」と表現。この静かな笑いは収録作すべてに通じていますね。
川上亜紀、ひとつの世界をずっと生きて変わらない、その編み目に狂いはなく欺瞞はなく、そこにはいきなり生の、真実の「小さい」感触が入ってくる。それは様々な世界に読み手を導く。
「群像」2019年1月号の短編小説「返信を、待っていた」で、川上亜紀『あなたと私と無数の人々』を引用している話も語られます。
同人誌「モーアシビ」の発行者を川上さんと勘違いしていた事でお詫びを書かれています。
(編集・発行人は白鳥信也さん。歴史あるマガジンなのですね。)
川上さんからのメールが途絶えたのが怖くて、「モーアシビ」の母親の手紙を読まずにいたが、遺稿を集めた詩集で知ったとのこと。
生きてからも死んでからも作品は変わらない。ただ、もっといて欲しかった。
切なすぎる。私ももっとたくさんみたかった。

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